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    マイコプラズマ肺炎アジスロマイシン耐性指標候補

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    今回紹介するのは、アジスロマイシン(AZM)感受性と耐性を示すマイコプラズマ肺炎患者の血清エクソソームをプロテオミクスで比較し、耐性診断のための候補バイオマーカーを探索した研究です。患者の治療前後の血清からエクソソームを分離し、ナノ粒子追跡解析(NTA)で特性評価後、LC-MS/MSによるプロテオーム解析で応答群(responder)と非応答群(non-responder)を比較しました。その結果、AZM耐性と関連するエクソソーム蛋白質の発現差が明確に観察され、シグナル経路としてHIF-1およびIL-17が関与することが示されました。

    特にKCTD12、LTF、TF、MPOの4蛋白が群間の識別に有望で、感度80%以上、特異度73.33%という性能で応答群と非応答群を判別できることが示されました。血清エクソソーム由来のプロテオーム情報を用いたLC-MS/MS解析により、AZM非応答患者の同定に資する候補指標が得られた点が本研究の意義です。今後はより大規模コホートでの検証と、臨床実装に向けた有用性評価が求められます。

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    煮沸時二枚貝蛋白質構造変化

    今回紹介するのは、Meretrix lyrataの閉殻筋、足、サイフォンの3組織を対象に、茹で時間の進行に伴うタンパク質の構造・コンフォメーション変化を多角的に追跡した研究です。データ非依存型取得(DIA)による定量プロテオミクスで6つの時間比較群(20–0、40–20、60–40、80–60、100–80、120–100秒)を解析し、計6527タンパク質を同定、差次的発現タンパク質(DEP)のGO解析から生物学的制御や代謝プロセスへの関与が示されました。プロテオミクスに加え、濁度、粒径分布、ゼータ電位測定、そしてFT-IRを組み合わせることで、加熱に伴う分子間相互作用や二次構造の変化を系統的に評価しています。

    主結果として、ミオシン重鎖、パラミオシン、アクチンといった筋原線維タンパク質は組織特異的な発現パターンを示し、加熱が進むほど17 kDa未満の低分子断片が出現しました。濁度は閉殻筋とサイフォンで60秒、足で80秒にピークに達し、粒径分布は100–1000 nmへと狭まり、ゼータ電位は低下してタンパク質表面電荷の減少が示唆されました。FT-IRでは水素結合の攪乱と二次構造の転移が観察され、αヘリックスの減少とβシートおよびランダムコイルの増加が明確でした。これらを総合すると、茹で過程におけるM. lyrata各組織の変性、分解、構造再編成の様相が定量的に示され、加熱による品質変化の機構理解に資する基盤データが提供されています。

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    SCPEP1陽性基底細胞酸化ストレス経路再構築

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    今回紹介するのは、特発性肺線維症(IPF)における酸化ストレス(OS)の細胞種別・空間的な偏りを、単一細胞RNA-seq、空間トランスクリプトミクス、バルクRNA-seqを統合して描き出した研究です。著者らは複数のエンリッチメント手法でOSスコアを算出し、LASSO、Random Forest、Boruta、Bayesian、LVQ、Treebagなどの機械学習で診断バイオマーカー候補を選別しました。発現の頑健性は公的データセットとブレオマイシン誘発C57BL/6マウスモデルで検証され、さらにCellChatや擬時間解析により細胞間コミュニケーションと転写制御の動態が評価されています。

    結果として、OS活性はIPF肺で全体に上昇し、特に基底細胞で顕著に富むことが示されました。71遺伝子候補の中からSCPEP1が最も堅牢な指標として浮上し、複数データセットと実験系で一貫して上方変動、トレーニングコホートでAUC 0.857を示しました。SCPEP1発現は気道近傍に空間的に偏在し、基底細胞に高い特異性を持ち、SCPEP1陽性基底細胞はWntシグナルや発生経路の再プログラム化、擬時間の初期段階での動的発現を特徴としました。さらに、MIF–CD74、MDK–NCL、ICAM1–ITGALといった線維化・炎症性のシグナル軸を介して免疫・間質細胞と多面的に相互作用することが示され、レドックス感受性経路やリガンド–受容体相互作用の優先的検討に資する知見と位置づけられます。なお、本研究はトランスクリプトーム統合解析に基づいており、質量分析計やLCメソッド、Evosepの使用に関する情報は示されていません。

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    消化器腫瘍ラクチル化機構と治療標的

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    今回紹介するのは、乳酸代謝に由来する新規エピジェネティック修飾「ラクトイル化」が消化器系腫瘍で果たす役割を総説したレビューです。ヒストンおよび非ヒストン蛋白質のラクトイル化(例:H3K9la、H3K18la)を介してクロマチンアクセスビリティを変え、転写プログラムを活性化することで、腫瘍進展、代謝リプログラミング、免疫回避、化学療法耐性を駆動するという知見が、食道がん、胃がん、大腸がん、肝細胞がん、膵がん、胆嚢がんにわたり整理されています。代謝—エピジェネティクスのクロストークを軸に、がん関連シグナリングのエピジェネティック制御という観点から最新動向を俯瞰しています。

    本レビューは、ラクトイル化を標的とするバイオマーカーや治療標的、薬理学的介入戦略の可能性をまとめる一方で、検出法の標準化と臨床的有効性の検証が未解決の課題であることを強調します。こうした機構解明は消化器がん生物学の理解を深め、新たな治療標的の地平を開くものであり、今後は腫瘍免疫療法やプレシジョンメディシンにおけるラクトイル化の関与解読が、早期診断と個別化治療に向けた具体的指針を与えるとしています。

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    妊娠抑うつとSRI治療の胎盤蛋白質発現

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    今回紹介するのは、妊娠中の抑うつと選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SRI)治療がヒト胎盤のタンパク質発現に与える影響を調べた定量プロテオミクス研究です。妊娠第2三半期に登録された82名を対象に、Hamilton Depression Rating Scale(HAM-D)で評価したうえで、非抑うつ、抑うつ・非SRI治療、抑うつ・SRI治療の3群に分類。胎盤組織に対してショットガンLC-MS/MSを用い、差次的発現解析とオーバーリプレゼンテーション解析を実施しました。

    抑うつ・非SRI治療群と健常群の比較では、抗酸化酵素や多様なSASP関連因子の増加とヒストンの減少が見られ、胎盤のセネセンスを示唆するパターンが観察されました。さらに、血小板活性化・脱顆粒、凝固カスケード、アミロイド線維形成に関与するタンパク質のアップレギュレーションも明らかになりました。一方で、抑うつ・SRI治療群を抑うつ・非治療群と比較すると、いくつかのタンパク質でダウンレギュレーションが認められました。無作為化が難しい母体メンタルヘルス研究において、胎盤という鍵器官のプロテオームを介して抑うつそのものの影響と薬物治療の影響を切り分ける端緒を示した点が意義深く、妊娠中の抑うつ管理のリスク・ベネフィットを考える基礎情報を提供します。

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    多モデル機械学習PRRSV抗ウイルスペプチド探索

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    今回紹介するのは、豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス(PRRSV)に対する抗ウイルスペプチド(AVP)をデータ駆動で探索した研究です。健常およびPRRSV感染の肺・小腸・大腸組織からプロテオミクスでタンパク質とペプチドを定量し、差次的発現のスクリーン後にGO、KEGG、COG、PPI解析で機能的評価を実施。得られたペプチドに対し、アミノ酸組成、二次構造、親水性といった物性に基づく特徴量を用いて、ランダムフォレスト(RF)、サポートベクターマシン(SVM)、さらに本領域で初適用となるグラフニューラルネットワーク(GNN)でAVP予測モデルを構築し、5分割交差検証で性能を検証しました。

    結果として、特徴重要度ではリシン、アルギニン、ロイシンが高く(いずれも約0.1)、相関ではリシンとグルタミン酸が最も強い正の関係(0.57)を示しました。性能評価ではRFがAUC 0.95で最良、GNNとSVMはいずれもAUC 0.94と同等水準で、モデル間で高い予測力が再現されました。本研究は、PRRSVに対するAVP候補を網羅的なプロテオミクスと機械学習で絞り込む実用的フレームワークを提示し、物性と残基組成に基づく予測の有効性を示すことで、今後の候補選定と実験検証の効率化に資する基盤を提供します。

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    イソバリック標識プレート型プロテオミクス開発検討

    今回紹介するのは、同位体等価ラベル(イソバリックラベリング)を用いたプレートベース高スループット(HT)プロテオミクスの開発と評価に向けた実践的指針です。著者らは、ナノリットルディスペンサーやリキッドハンドラーなどの自動化機器とLC–MSを一体化したHTプラットフォーム向けに、評価用スタンダード「HT-sKO」を構築。非ヒト由来の組換えタンパク質をスパイクする設計により、通常のサンプル測定とプラットフォームの性能評価を同時に行え、標的タンパク質量が最大60倍変動する条件でも定量精度の評価と相対的な定量下限の推定が可能になります。

    さらに、安定したHTプラットフォーム構築には堅牢なアクイジション戦略が基盤であること、そしてチューブベース法を「インフォーマントアッセイ」として用いることでプレート測定の品質期待値を事前に見積もれることを示しました。HT-sKOを用いた実証では、タンパク質レベルでのプレート内・プレート間ばらつきが約4–6%、ペプチドレベルで約10%に収まり、全プロテオーム、ホスホプロテオーム、反応性システインプロファイリングにも適用可能であることを確認。自動化されたプレートベース・イソバリック定量ワークフローの品質管理とスケール化に向けた、実用的な標準と検証フレームを提供しています。

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    口腔疾患オミックスの診断治療

    今回紹介するのは、歯学領域におけるオミックスの最新動向を整理したナラティブレビューです。う蝕、歯周病、口腔扁平上皮癌を主題に、ゲノミクスでは疾患関連遺伝子変異やポリジェニックリスクスコアの活用、トランスクリプトミクスでは免疫制御異常や腫瘍内不均一性を反映する発現シグネチャの同定がまとめられています。プロテオミクスとメタボロミクスは、診断・予後に有望なタンパク質および代謝物バイオマーカーの探索に寄与しており、疾患理解と臨床応用の橋渡しに位置づけられます。

    本レビューの要点は、これらのデータを統合するマルチオミクス枠組みが、口腔疾患の病態を全体像として捉え、データ駆動型の精密歯科医療(診断・予防・治療最適化)に資するという展望です。一方で、早期診断ツールや個別化予防・標的治療への臨床実装には、標準化や検証、実用上の制約などの課題が残ることも指摘されています。質量分析を基盤とするプロテオミクスの発展と、転写・ゲノム・代謝情報との統合が、今後の口腔疾患研究と臨床応用のキードライバーになることが示唆されます。なお、本レビューでは特定のMS機種名やLCメソッド、Evosepの使用有無には言及がありません。

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    単純ヘルペス感染歯周組織の炎症性サイトカイン変動

    今回紹介するのは、ヘルペスウイルス感染が歯周組織に誘導する炎症応答を、プロテオミクスで時系列に追ったin vitro研究です。健常ドナー由来のヒト歯肉線維芽細胞(HGF)をHSV-1で感染させ、12~72時間の早期・後期ステージで回収した試料をDIAベースのLC–MS/MSで解析し、計890種の差次的発現タンパク質を同定しました。

    早期には、IRF7、ISG15、IL6、TLR2、各種インターフェロン誘導性タンパクの上昇と、MMP2の低下が顕著で、補体系・凝固カスケード、リソソーム、NOD様受容体、RIG-I様受容体、TLRシグナルなどが活性化。一方、後期ではインターフェロン誘導性タンパク群やIL1、MMP3が上昇し、補体関連タンパクは低下しました。とくにTLR2は、歯周環境におけるHSV-1に対する宿主の抗ウイルス防御反応を示す候補バイオマーカーとして浮上しており、今回のプロテオミクス解析は、歯周組織でのHSV-1感染に対する宿主応答の枠組みを提示するものです。なお、MS機種名やLCメソッドの詳細、Evosep使用に関する記載はありません。

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    膵癌線維化治療応答共標的候補ニドゲン2

    今回紹介するのは、膵管腺癌(PDAC)の線維化進行を時間分解で捉え、線維化と治療反応性を制御する新たな共標的としてnidogen-2(NID2)を特定した研究です。転移性の高いKPCと低いKPflCのマウス腫瘍および野生型を、発症初期(約50日)、中期(約90日)、後期(約200日)に採取し、ISDoTによる脱細胞化でマトリックスを濃縮、DIA LC-MS/MSで網羅解析しました。その結果、NID2が特に中期のKPC腫瘍で増加していることが明らかになりました。

    機能検証では、CAFに対するNID2のCRISPRiにより、3Dオルガノタイピック基質の線維化がSHGイメージングやピクロシリウスレッド/複屈折解析で低下し、がん細胞の浸潤も抑制されました。さらに、サブキュタネアスおよびオルソトピック共移植では腫瘍増殖と線維化が抑えられ、インタービタル蛍光量子ドットによる観察で血管開存性が改善、ゲムシタビン/ナブパクリタキセルへの反応性も向上しました。肝転移の減少と生存期間の延長も認められ、NID2がPDACにおける線維化と治療反応を調節する間質性の有望な共標的であることが示唆されます。なお、質量分析はデータインディペンデント取得(DIA)によるLC-MS/MSで行われています。

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